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「産科と婦人科 」掲載執筆論文

「産科と婦人科」 第75巻 第7号  2008年7月1日発行
 特集/Office Gynecologyの将来   Office Gynecologyの言葉の意味 
発行所 株式会社 診断と治療社


Office Gynecologyへの挑戦−前がん病変・早期がんの管理−
(CINレーザー蒸散、体がんMPA療法、セカンドオピニオンなど)

要 旨
 
基幹病院と厚生労働省がん研究班で培ったGynecologic Oncologistの専門性を生かしたOffice Gynecologyに挑戦し、開院後の2年間にCIN・早期頸がんのレーザー蒸散術186例とレーザー円錐切除術34例を行った.また、若年子宮体がんのMPA療法は5例中4例が治癒して2例が妊娠した.セカンドオピニオンは卵巣がん・卵巣嚢腫、子宮がん・前がん病変、子宮内膜症、子宮筋腫など38例に行った.


はじめに
  私は卒後30年を経て婦人科腫瘍の診療を中心としたOffice Clinicを2年前に開設した.基幹病院や厚労省がん研究班で20年余り培ったGynecologic Oncologistとしての専門性を生かしたOffice Gynecologyがどの程度可能であるか、私が進めている診療内容を紹介する.

外来診療の特徴
  外来診療の特徴として、子宮がん・卵巣がん・卵巣嚢腫・子宮筋腫・子宮内膜症などの婦人科腫瘍について、精度の高い検診と専門性の高い診療(診断・管理・妊娠機能温存治療・セカンドオピニオン)を行うことを掲げている.
  2005年12月に開院した際、近隣100m圏内に既存の産婦人科Office Clinicが5施設(女性医師Clinicが2施設、男性医師Clinicが3施設−うち不妊専門Clinicが1施設)あった.婦人科腫瘍専門医のClinicは私が初めてだった.
  入居ビルは広島市中心部の中区紙屋町に位置し、ターミナル駅から1分と近く交通至便である.1〜2階に外資の洋服店、3階に脳外科Clinic、4階に当院、5階に呼吸器・自己免疫疾患Clinic、6〜9階に医療専門学校が入居しており、車椅子が使用できるバリアフリー構造である.

診療内容
  開院後2年間の新規患者数は2,000名余り(1年目1,000名余り、2年目1,000名余り)で、一月平均の新規患者数は90名程度(診療実日数は一月平均19日)である.完全予約制で診療している.一日の診療患者数は制限されるが、専門性の高い技術や知識を武器として、詳しい説明文書を用いてインフォームド・コンセント(以下I.C.)を行い、患者の理解が得られる丁寧な診療を行うことを心掛けている.
  診療疾患で最も多いのは、若年女性を中心に増加している子宮頸部初期病変の診断・管理(細胞診・コルポスコープ診・狙い生検)と子宮頸部異形成・早期がんに対する妊娠機能温存治療(レーザー蒸散・レーザー円錐切除術)である.受診患者の多くは他施設からの紹介受診で、残りは口コミ、インターネット、新聞、ラジオ、テレビ、雑誌を通じての受診である.子宮がんの1次検診を実施している診療所・病院・検診センター(数施設)と連携している.
  子宮頸部異形成・早期がんに対する機能温存治療については、1981年からレーザー蒸散術、1990年からレーザー円錐切除術の豊富な治療経験がある 1)〜3). 子宮頸部の異形成、上皮内がん、Ta1期がんに対する妊娠機能温存治療として、開院後の2年間にレーザー蒸散術186例、レーザー円錐切除術34例を行った.
  これまで2年間の細胞診件数は4,131件(頸部3,327件、体部548件、膣断端243件、その他13件)、病理組織件数は678件だった.細胞診標本と病理組織標本は陰性例を含めて鏡検し、報告所見をダブルチェックして患者に説明している(細胞診専門医資格有り・婦人科病理診断留学研修経験有り).
  近年、子宮がん中の体がん頻度が増加しているが、体がんの高頻度群である類内膜腺癌Grade 1は異型内膜増殖症や内膜増殖症を高頻度に合併しており、内膜増殖症、特に異型内膜増殖症から高頻度に類内膜腺癌が発生している.
  最近の多施設共同研究(東京慈恵医大産婦人科、こころとからだの元氣プラザ、山梨大学産婦人科、日本大学病理学、呉医療センター婦人科、当院)により、@内膜増殖症の検出には簡易内膜吸引組織診が内膜細胞診よりすぐれていること、A現在の子宮内膜細胞診の診断基準では子宮内膜増殖症が十分検出できていない可能性が高いことがわかったので 4)、内膜増殖症を効率よく診断するために、内膜細胞診と簡易内膜吸引組織診、内膜超音波診断を組み合わせた新しいスクリーニング検診を行っている.また、子宮内膜病変の精検にヒステロファイバースコープを適時使用している.
  若年子宮体がんに対する高用量MPA投与による妊孕能温存療法については、厚労省のがん研究(吉川裕之班)でJCOG登録治療した経験に基づいている.これまで2年間に妊孕能温存療法を強く希望して受診した39歳未満の子宮内膜異型増殖症3例と子宮体癌Ta期(類内膜腺癌grade 1)2例の計5例を治療した.その結果、4例が治療奏効して寛解に至り、うち2例は直ちに体外受精で妊娠成立し、1例(Ta期)は分娩して健児を得、もう1例(異型増殖症)は妊娠中である.妊娠希望がない残り2例(異型増殖症)はピル服用しながら慎重に管理している.若年子宮体がんのMPA治療寛解治癒例は常に再発に注意する必要があり、妊娠・分娩後は子宮摘出が望ましいとI.C.している.
  婦人科腫瘍の診断・治療・管理に必須であるMRI、CT、PET-CT検査については、放射線画像診断専門医が常勤している近隣の放射線診断センターと連携しており、同センターから婦人科腫瘍症例の患者紹介がある.
 婦人科 腫瘍のセカンドオピニオンについては、基幹病院でセカンドオピニオン外来の設置に携わった経験に基づき、以下の方法で実施している.@外来診察時間帯に行うことは困難で、実施日時は調整のうえ、完全予約制とする、A料金は健保適応外で自費(30分まで10,500円、以後30分迄毎に5,250円、消費税含む)、B主治医の紹介状が必要、C主治医の診療情報と検査画像を(可能なら事前に)持参する、D対象疾患は婦人科 がん(子宮がん・卵巣がん・前がん病変・転移性がん)、婦人科良性腫瘍(子宮筋腫・子宮内膜症・卵巣嚢腫)、更年期障害、一般的婦人科疾患、Eセカンドオピニオンの内容は文書にして患者と主治医に提供する、などを了解された患者と代理人が対象である.
  これまで2年間に上記の方法で婦人科腫瘍38例(卵巣がん12例、子宮がん5例、卵巣腫瘍8例、子宮頸部異形成3例、子宮内膜増殖症2例、子宮内膜症4例、子宮筋腫3例、絨毛性疾患1例)の患者もしくは代理人にセカンドオピニオンを実施した.主な相談内容は、卵巣がん・子宮がんでは再発がんの治療について、前がん病変では診断の精度と治療の要否について、子宮内膜症・子宮筋腫では手術の要否と妊孕能温存治療法について、などであった.

医院経営
  医院経営については、経理・税務面は会計士・税理士に委託し、職員管理面は社会保険労務士に相談している.診療収入は患者数により決まるが、専門性の高い保険診療を中心とした予約制のため、一日に診療できる患者数は制限される.予約が調整できない患者、予約なしの初診患者の対応など、診療時間帯の工夫が日々の課題である.
  開院して2年経過して経営収支のほうも落ち着いてきたので、予約診療制はなんとか工夫しながら継続し、患者の理解が得られる丁寧な診療と職員が生活・健康面にゆとりを感じながら働ける職場環境を維持することが肝要ではないかと考えている.
  クリニック内部の配色や配置(40坪)は、設計の段階からインテリア・コーディネーターの意見を取り入れ、診察室、内診室、手術室、安静室、処置室に車椅子で出入りができる空間を配し、基本色調はベージュ、アクセントにブルーとピンクが使われている.待合室は広さを確保して患者同士が顔を合わせないように席(10席)を配置し、受付で渡す診察カード番号で患者を呼び、患者との会話が外に漏れないように各室の仕切りに扉を配し、プライバシーの確保に留意している(図1,2,3,4 ).



図1 入り口

図2 待合ロビー

図3 受付カウンター

図4 診察室

 診療システムは電子カルテを用い、診療内容の適格な記録・保存と受付・検査・会計のオンライン化による患者待ち時間の短縮に役立っている.診療設備は腹部・乳腺超音波装置、経膣超音波装置、子宮ファイバースコープ、コルポスコープ、レーザー手術装置、麻酔器、心電図、生体情報モニター、細胞組織診断用顕微鏡などである.
  インターネットのホームページは業者に頼らず作成し、開院後4ヶ月位して開設した.開設後20ヶ月余りで26,000件余りのアクセスがあった.若い女性は携帯電話でクリニックをネット検索することが多いようである.

おわりに
 私は2002年に広島県における若年子宮頸がんの動向とがん検診実施成績を調査して29歳以下の異形成発見率と上皮内がん発見率が急増していることを確認し、若年層への検診拡大必要性の根拠として論文、新聞などで啓蒙活動した 5).2004年4月に厚労省の指針が改正され、検診開始年齢は20歳まで引き下げられたが、検診間隔は2年になった.改正後は20代の検診受診者が増え、初回検診での異形成発見例が多くなったが、隔年の検診では不十分である.
  異形成・上皮内がんはHPVの持続感染で発生することが知られており、20代に多い喫煙者、ピル服用者の中には軽度異形成が自然消退せず、高度異形成〜上皮内がんに進展する例が多いように思われる.10代後半と20代前半ではHPV high risk 群の感染率がクラミジアの感染率より高い傾向もうかがわれる.
  広島市でもHPV感染を予防するワクチンの治験が実施されているが、子宮頸がんの予防を含めて、HPVワクチンが近い将来Office Gynecologyにどのように取り入れられるか、注目している .

文献

1)藤井恒夫・他:子宮頸部異形成および早期癌に対する保存療法としてのYAGレーザー円錐切除法.日産婦中四会誌 41:74−84,1992.
2)藤井恒夫・他:子宮頸部初期病変に対する妊孕性温存療法―その有用性と再発の検討―.産婦実際 50:631-636,2001.
3)藤井恒夫:円錐切除術は不妊の原因になるか.臨婦産 56:955-959,2002.
4)藤井恒夫・他:子宮体癌検診における内膜増殖症の検出感度に関する内膜細胞診と簡易吸引組織診との比較検討.日臨細胞誌 46 (suppl.1):108,2007.
5)藤井恒夫・他:広島県における若年子宮頸癌の動向と癌検診実施成績―29歳以下の若年層への検診拡大の必要性について―.日本がん検診・診断学会誌 11:86-91,2003.

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